前回の記事では、天気予報をきっかけに旅程を組み替え、ドイツから夜行の鉄道でツェルマット(Zermatt)へ向かった道のりをお伝えしました。今回はいよいよ、マッターホルン(Matterhorn)のお膝元・ツェルマットでの1日半をたっぷりご紹介します。
到着してすぐ、ゴルナーグラート鉄道へ

夜明けとともにツェルマットに降り立った瞬間、木造のシャレー(山小屋風の建物)が立ち並ぶ美しい町並みと、その奥にそびえるマッターホルンの姿に一気に旅の疲れが吹き飛びました。ただし、感動に浸っている時間はあまり長くは取れません。スイスの山は午後になると天候が崩れやすいため、良い景色を確保するには朝一番の行動が鉄則です。
到着後すぐに荷物を担いだままゴルナーグラート鉄道(Gornergrat Bahn)のツェルマット駅へ向かい、山頂行きの登山鉄道に乗り込みました。鮮やかなオレンジ色の車両は、ハイキング姿の乗客でほぼ満席。途中駅で降りてそこから歩いて登る人、犬を連れて乗り込み、途中下車して一緒に登っていく人など、アクティビティが生活の一部として根付いているスイスならではの光景を車内から眺めているだけでも、旅情がかき立てられました。

標高3,089m、雄大すぎる山頂パノラマ
約33分の乗車を経てたどり着いたゴルナーグラート展望台は、まさに息をのむ景色でした。マッターホルンはもちろんのこと、周囲に連なるモンテ・ローザ(Monte Rosa)をはじめとする4,000m級の山々、雪の残る岩肌、青く輝く氷河……日本の山では決して見ることのできないスケール感が目の前に広がっていました。

展望台付近では観光やハイキングだけでなく、マウンテンバイクで駆け下りていく人や、トレイルランのレースのようなものが行われている様子も見られ、こうしたアウトドアアクティビティが現地の人々の暮らしに自然と溶け込んでいることを肌で感じました。また、展望台のすぐそばにはホテルがあり、朝や夕方にマッターホルンを独り占めできる特別なロケーションとして、機会があればぜひ宿泊をおすすめしたいスポットです。今回は前日にドイツからツェルマット市街の宿を先に手配していたため叶いませんでしたが、次に訪れる機会があれば挑戦してみたいと思っています。
歩いて下山、逆さマッターホルンの絶景へ
山頂を満喫した後は、来た道を鉄道で戻るのではなく、片道券だけを購入してツェルマットまで歩いて下山するルートを選びました。下山ということもあり、思っていたよりも体力的な負担は少なく、雄大な景色を眺めながらのんびりと歩を進められました。
途中、ローテンボーデン(Rotenboden)駅の近くにある「リッフェル湖(Riffelsee)」に立ち寄ると、風のない晴れた日にしか見られない湖面に映り込む逆さマッターホルンを写真に収めることができました。ただし、時間が経って昼に近づくと雲がかかりやすく、風で湖面が揺れて景色が崩れてしまうこともあるため、朝早い時間帯に余裕を持って訪れるのが、綺麗な一枚を撮るコツです。

山あいの町・ツェルマットで過ごす午後
歩いて町へ戻った後は、ツェルマットの散策を楽しみました。山道具店やスイスらしいお土産屋が立ち並ぶ通りを歩くだけでも十分に楽しく、レストランで食事をすると割高になりがちなスイスでは、スーパーで食材を調達して宿で食べるというスタイルが旅費の節約に一役買ってくれました。

今回の宿はAirbnbで見つけたアパートメントタイプの一室。キッチンや洗濯機を自由に使えたおかげで、ドイツ滞在中に着ていた服をまとめて洗濯し、身軽な旅の装備をリセットすることができました。荷物を最小限に抑えた旅だからこそ、こうした滞在先の設備の充実度は旅の快適さを大きく左右します。
夜:マッターホルンの夜景を独り占め
日が落ちた頃、町から少し小高い場所にあるビューポイントへ向かいました。町の温かい灯りを前景に、星空の下でマッターホルンの巨大なシルエットが浮かび上がる光景は、言葉を失うほど幻想的。長い時間そこに座り込み、目に焼き付けながら何度もシャッターを切りました。今でもこの旅で一番のお気に入りの一枚です。

よく目を凝らすと、マッターホルンの山肌にぽつぽつと小さな光が動いているのが見えました。夜間に山を登攀している登山者のヘッドライトの明かりです。日本ではまず目にすることのない光景に、スイスという国の登山文化の懐の深さを感じずにはいられませんでした。
翌朝:モルゲンロートと、フリーな1日
翌朝は早起きをして、再びマッターホルンを望める場所へ。太陽が昇るにつれて山頂だけがじわじわと赤く色づいていく「モルゲンロート(Alpenglow)」は、夜景とはまた違った種類の感動を運んできてくれました。順番に赤く染まっていく様子は、一生ものの記憶になる美しさでした。

朝日を見届けた後は、この日1日をフリーな日程に。ツェルマットの街を眺めながらゆったりと過ごしたり、UTMB(Ultra-Trail du Mont-Blanc)に向けたトレーニングを兼ねて周辺のハイキングコースを走ったりしながら過ごしました。翌日は朝一番の電車でユングフラウヨッホを目指す予定だったため、この日は早めに就寝。絶景と、レースに向けた準備の両方を満たせた贅沢な1日になりました。

まとめ:ツェルマットが教えてくれたこと
到着から丸1日半、マッターホルンという一つの山にこれほど向き合った旅は初めてでした。天候に恵まれたタイミングを逃さず動いたからこそ出会えた景色の数々は、予定変更という決断があったからこそ得られたご褒美だったのだと思います。次回の記事では、ヨーロッパ最高地点ユングフラウヨッホと、途中下車で立ち寄ったベルン、そしてジュネーブでの様子をお届けします。
